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■√

 るーと、というものの概念がよくわからない。
 日本語で言うと平方根。書くときは数字に√って記号をつける。
 日本語で言っても、実際に書いてみてもよくわからない。

 るーとは昨日の数学の時間に習った。
 数学の小宮先生が黒板に変な記号を書いて、その中に数字を入れた。先生が言うには、るーとは平方した数字を表しているのだという。平方っていうのは同じ数字を二回かけたということ。だから、√2は2ではなく、2よりもずっと小さい数字だという。
 √4は2。2を二乗すると4になる。
 √2は「ひとよひとよにひとみごろ」だって習った。
 √3は「ひとなみにおごれや」だって習った。
 だからなんなんだ。
 るーとなんていらないじゃない。そんな中途半端な数字はどこで使うんだ。
 分数ならわかるよ。料理する時とか、軽量カップに三分の二、とか言うもんね。
 でも、るーとは何に使うのよ。  例えば、ここに一辺が4センチの正方形があるとするよね。これの面積は16平方センチメートル。これ、√256平方センチメートルとかって言う? 誰もそんなこと言わないよ。試験でそんなことしたら絶対バツもらっちゃう。  そもそも、2は√2かマイナス√2を二乗した数なんだよって言われても。そんな不確定な数字、数学で使っていいの?  数学はきっちりと一つの答えが出なきゃ済まない人たちの学問でしょう。
 数学者って結構いい加減なんだね。
 渋い顔のパパ。
 パパの目の前で数字が並ぶ教科書をめくる。白いつるつるした表紙のとっても綺麗な教科書。
 目に飛び込んできたのは2√2。
 ねえ、これって2なの? 違うの? それとも、2よりちょっと大きいってことなの?
 2よりちょっと大きいなら小数で表しなよ。
 割り切れなくてもいいよ。循環小数の表記のしかたは一年生の時に習ったから。
 2√2は3よりずっとでかいぞ、とパパが言った。
 どうしてそうなるの。全然わかんないよ。2じゃないならどうしてるーとの前に2がつくのさ。
 あのさぁ、パパって毎日こんな数字だか文字だかわからないものを使って計算してるんだよね。
 それで実際、何の役に立つの?
 パパって何の役にも立たないものを研究してるの?
 それはね、って言ったけど、そこから先は口篭もってる。
 小宮先生にお父さんが数学者なんてすごいわね、って言われたけど、全然すごくないよ。
 るーとってものの概念をちゃんと現実に沿って説明できないなら、数学者やってる意味ないんじゃない?

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