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■のどあめ

「博士博士博士ー!」
「なんだねなんだね、こんな朝っぱらから。もう少し寝かせてくれないか」
「博士! そんなこと言ってる場合じゃありません。その寝惚けた頭に活を入れてとっとと起きてください。どんなにねぼすけな博士でも起きるべきなのです!」
「なんだね、君は遠回しに馬鹿にするためにこんな朝からやってきたのか」
「違います! そう思っているのは事実だけど違います! ついに成功したんです」
「何がだね。またあのカニみたいな代物だったら君を解雇するぞ」
「あんな役に立たない不味い物はまとめて近所の川に放流しました。繁殖力は普通のカニの倍だから今ごろ川はカニだらけでしょう。加えてやつらは貪欲です」
「そ、そんな生物兵器を放してはいかん!」
「いえいえ。今度のはすごいですよ。そんな失敗はちょっとしつこい湯垢程度にしか思えませんから。ノーベル賞ものです!」
「……ほう、君がそこまで言うのはどんなものかね」
「気になりますか? 気になりますよね? だったら早く着替えて下の実験室に来てください」
「……ああ、せわしく出て行ったよ。まったく、あの助手は悪いやつではないんだが……やってることがみんな的外れなんだよなぁ。しかも興奮してるときに限ってロクなことがない。優秀なことは優秀なんだが、ちょっとな。まあ、期待しないで行ってみるか」

「ああ、博士! やっと来ましたか!」
「何だね何だね、この騒ぎは。どうして君が胴上げされているんだね」
「嬉しいからです! 博士も胴上げされますか?」
「いや、腰が痛いから遠慮しておくよ。それより、成功した物を見せてもらおうか」
「はい、これです!」
「いや、その、胴上げされたまま差し出されても困るんだが」
「あ、そうですね。失礼しました。よっこらせっと。改めまして……これです」
「ん? このやたらとどす黒くて丸っこい物は何だ?」
「のどあめです。カンロののどあめと黒飴を参考にしたのでどす黒いどぶ色となっています」
「どぶ色……君、その自分の感性に疑問を持ったことはないか?」
「はい? 何のことですか?」
「……いや、いい。ところでこののどあめとやらは一体どこがすごいんだ」
「よくぞ聞いてくださいました! な、ん、と!」
「迫るな、迫ってくるな!」
「ありとあらゆる風邪を治してしまうのどあめなのです! 喉の痛みだけじゃありません。発熱鼻水頭痛関節痛はては下痢まで、すべての風邪の症状に効く特効薬なのです!」
「それは本当か!? 本当だったらノーベル賞狙えるぞ!」
「本当です。自信あります! 博士、昨日咳してたじゃないですか。風邪は引き始めが肝心です。どうぞお試しください」
「うむ……では、ちょっといただくとするか」
「どうぞどうぞ。はい、あーん」
「ところで、肝心の味はどうなんだ?」
「良薬口に苦しって言うじゃないですか。毒かと思うくらい不味いです。むしろ毒です!」
「ぶっ!!」
「ああ! せっかく口に入れたのに、なんで出すんですか!」
「げほっ、げほっ。そんなもん食わすんじゃない。殺す気か!」
「や、やめてください! 数少ない成功品を生ゴミに捨てないでください!」

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