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■荒野

 男は荒野に生きるべきなのさ。
 ほら、映画なんかによくあるだろう?
 イージュー・ライダーだって荒野を駆けるし、OK牧場の決闘だって荒野で戦う。
 かっこいい男は荒野にいるべきなんだよ。
 チョッパーハンドルのハーレー・ダヴィッドソンに乗り、ごっつい銃を腰に二挺下げる。
 もちろん銃はリボルバーでな。
 無精髭に、伸ばしっぱなしの砂色の髪。日がな一日太陽の元にいるおかげで浅黒く焼けた肌。
 目深に被ったテンガロン・ハットから覗く瞳には、鋭い野獣の光が宿る。
 これだよ!
 西部に夢を求めて旅立つ、これだよ!

「そこでこの俺」
 と、靖男は自分の胸を叩いた。
「日本人にしては高く、引き締まった肉体」
 ひょろ長いだけだよ。引き締まってるっつーか、痩せすぎて筋肉すらない体になってるだけ。
「ちょっと伸びた砂色の髪に、浅黒い肌」
 地黒なだけじゃねーか。砂色の髪ったって、ブリーチ失敗して色抜きすぎただけだろ。
「ハーレー・ダヴィッドソンに乗り」
 ハーレーってあれか。カマキリハンドルのママチャリか。半年前に駅前でパクられて、パクり返したあれか。
「腰に下げた二挺の銃!」
 ジーンズのポケットに突っ込んだ、おもちゃのリボルバーを素早く握る。銃把を握っただけで、プラスチックの出っ張りがズボンに引っかかって中々出てこない。
 もぞもぞとポケットを探り、ようやっと両手におもちゃのリボルバーを握る。
 腰に構え、撃鉄を起こそうとするけど、固定されてて動かない。フリだけ。
「男と男の決闘! バーン!」
 砂壁にピンクのBB弾がピシッピシッと二発当たった。一発は靖男自作のアイドルポスターに当たり、小さな窪みを作った。
 おもちゃの銃を指先でくるくると回し、またポケットに戻す。戻そうとして指から抜け、床に落ちた。慌てて拾い上げ、両手で一つずつジーンズのポケットに納める。
 今度は背を向け、壁にかけてあった帽子を被った。去年の学園祭の仮装パーティーで使った魔女のとんがり帽子。長い帽子が中ほどで切られていた。空いた穴はへたくそな裁縫で繕ってある。
「真紀、止めないでくれ。これが男なんだ。男は荒野に生きるんだ」
「誰が止めるか。勝手にしろ」
 荒野の七人のビデオをデッキから取り出して、レンタルショップの青い袋に入れた。
「じゃ、これ返してくるから。せいぜいおもちゃで抜き撃ちの訓練でもしておくんだね」
 靖男のことだからすぐに冷めるでしょ。まったく、その気になりやすいんだから。
 部屋を出る前に少し振り返ると、バカはかっこつけながらアイドルポスターにできた窪みを伸ばしていた。
 どうしてこんな男を選んだものか。つくづく、自分の見る目の無さに呆れる。

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