■モノクローム・ビデオテープ
懐かしい人の夢を見た。
穏やかな午後の日の、帰りの電車の中。
窓の外には初夏の田園風景が広がる。ついこの前、田植えを終えた田んぼには青々とした葉が伸びている。さわさわと葉が揺れ、その身いっぱいに太陽の光を受けている。
地平線はどこまでも青く、田畑だけがそこにある。
唯一、遥か向こうに見える道路を赤い車が一台、ゆっくりと走っていた。
風の薫りも緑色。清涼な空気はわずかに湿り気を含んでいる。日に日に強くなる陽射しが暑い季節を思い出させる。
土曜日の帰りの電車は空いている。暖かな光に満ちた車内には、山へ行くのであろう家族連れの他、私たちしかいなかった。
ボックス席に向かい合って座り、私と彼はとりとめのない話をしていた。
「最近、どう?」
と私が聞くと、
「お前は?」
と彼が聞き返してくる。
学生服の前を開け、白いシャツの一番上のボタンだけを外している姿は私の知っている彼。だけど、目の前の少年は、本当は少年じゃない。今はもう、立派な青年。
彼と別れてからの自分のことを少しずつぽつぽつと話す。
学校を卒業してからのこと。
仕事を始めたこと。
でも、どうしても自分に合わず、やめてしまったこと。
そして、将来と希望を見失ってしまった今のこと。
彼は相槌を打つこともせず、腕を組んで黙って聞いてくれた。細く開けてある窓から入る風に、少しだけ目を細めた。
もう、卒業してからどれくらい経つのだろう。三月の晴れた日、校門の前で彼は「じゃあな」と言って私と反対の方向へ歩いて行った。また会えるかもしれない。そんな淡い希望を残すような別れ方だった。
それ以来、彼とはまったく会っていない。電話も無いし、手紙も無い。
やっぱりあの時が最後だったのかな、と思う。
あまりにもすっきりとしていた。
この人と巡り合うことはもう二度とない。そんな予感は、自分の中の悲観的な自分だけが感じていたわけではなかった。
彼はどんなふうに成長したのだろう。
だけど、私が知っている彼はあの頃の彼だけだ。こうやって座っている彼は少年の姿で、私は今の私だった。
土曜の午後、こうやって向かい合って座り、話しているのもあの頃と同じ。
「お前ならやれると思うんだけど、うまくいかないもんだよな」
変わったのは私だけ。私はあまりにも変わりすぎた。学生時代の私はどこかへと消え去り、つまらない大人になった。
話すこともつまらない。振舞いもつまらない。
まるで、デスクの上に置きっぱなしのちびた消しゴムみたいに。
少し長い前髪が、陽に透けて薄茶色に見える。額の傷がわずかに覗いた。
「元気?」
「うん、元気だよ」
そう言って笑顔をつくった。彼の前だけでも元気でいたかった。無理矢理の笑顔が、自分でもつらかった。
「それならよかった。俺も、元気だよ」
彼も笑った。
風を切って田園を走る。流れて行く風景がだんだんと減速を始めた。
電車は間もなく駅に着く。
目が醒めてから、布団の上で少しだけ泣いた。