■業務改善
「なあ、大原。俺たちに足りないのはなんだと思う?」
唐突に小林先輩が言った。俺と杉野さんは朝から報告書や申請書を作っていたけれど、この班長はずっと遊んでいた。
「何ってなんですか」
パソコンの画面から目を話さずにちょっとむっとした顔で問い返す。
「お前たちには文句はないんだよ。杉野さんの弓の腕は上がっていく一方だし、石岡はなんだかんだいって手伝ってくれてるし、大原は本当に便利だし」
俺は便利の一言で済まされるのか。たしかに、戦士兼盗賊兼僧侶時々魔法使いなんてやっていれば便利と言われても仕方がないとは思う。この前なんて、業務命令でドラクエのホイミ覚えさせられた。特技がホイミですなんて履歴書に書けやしない。
偉そうにオフィスチェアに寄りかかり、デスクの上に足を乗せた不安定な格好のまま、腕を組んで唸っている。椅子の足一本で支えている姿勢は非常に不安定であるものの、ぴたりと止まって動かないのはさすが班長と言える。
「四人のチームワークも抜群だ。他んところの勇者課に負けていない、いや一番じゃないかな」
他のところとは他企業のことを指す。この奇妙な名前の部署は、ある特殊な社会貢献事業を専門に行うところで、有名大企業ならば大抵存在している。主観とは言え、あらゆる猛者を差し置いて一番と褒められるのは嫌ではない。
「では何が不満なんですか」
「六人じゃないかと思うんだ」
「は?」
「やはりチームは六人が基本だと思うんだ。これは黎明期からの鉄則だ。前衛は戦士戦士侍、後衛は魔術師僧侶盗賊だな」
「黎明期ってなんの?」
「いや、忍者も捨てがたいな。君主も欲しいと言えば欲しいし」
聞いちゃいねぇ。俺は薄々勘付いていたけれど、そっち方面に疎い杉野さんにはさっぱり見当もつかないようだ。ぽかんと口を開けたまま上司を眺めている。
「先輩、何の話を」
「まあそのあたりは最初から仲間にできないし、転職できるようになってから考えるか。とりあえず俺が戦士、大原が侍のちに君主。石岡が魔術師で杉野さんが盗賊だから、残りは戦士と僧侶か」
「小林」
石岡先輩は止まらない小林先輩をさえぎり、手にした携帯ゲーム機を取り上げた。石岡先輩が無造作に投げ捨てたゲーム機を俺がキャッチし、杉野さんと一緒に画面をのぞく。そこにはワイヤーフレームの擬似3Dダンジョンが描かれていた。
「もういい歳なんだから、職場でウィザードリィはほどほどにしておけ」