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プラスチックの容器を振ると、カラリと乾いた音がした。残りはあと少しだけのようだ。
うるさく鳴り続ける電話を取って、受話ボタンを押す。いつもの母親の声がして、二、三の連絡が済むとお小言が始まった。
マルチビタミンと書いてある容器の蓋を取って逆さにする。四粒ほどの錠剤が掌の上に転がる。
全部口に放りこんだ。ボリボリと噛み砕き、コップの水とともに飲み下す。
「大丈夫。ちゃんと食べてるってば」
野菜を食べろだの、外食は控えろだのとうるさい。うるさいのは母親が元気な証拠でもある。
口うるさいのは昔からのことで参ってしまうけど、なぜかそれが安心できる。
「私だってもう二十四なんだから、自分のことくらいわかるって」
電話を耳と肩で挟む。自由になった両手でクローゼットを開けて服を取り出す。寝巻代わりのTシャツを脱いで、洗濯カゴに投げ入れた。
「……うん、わかったよ。来月末には帰るから。それじゃ……」
切断。
バッテリー量を見ると、これも残りわずか。電源を切って充電器に差した。
塩素の香りがする水で顔を洗う。四年間も同じ場所に住んでいれば、そんなものも何でもない。すっかり慣れてしまった。
電話と洗顔で脳が目覚める。手早く身支度を整える。冷蔵庫を開けてFeと書かれたラベルの容器を出す。中の錠剤を噛み砕き、またコップの水で飲み下した。